桜井和寿のホンタイ






スケッチブックだったのかノートだったのか忘れた。彼は作詞ノートをずっと持っていた。けれど,そこに彼が新しい詩を書き加える現場に僕は遭遇しなかった。彼の字はほんとに下手だった。
僕自身、字は下手で、下手さ加減に自信があったのだが、彼には及ばない。彼の詩は字の下手さを考慮して採点して……
高得点な詩ではなかった
新しいテクニックなどない
独特なクレイジーさだってない
素直な詩だった
そこで「素直でいい詩だ。俺にはこんな素直な詩書けない」と言ったと思う。
万人受けする彼のまっすぐな執着心は、だから、彼の素である。
まっすぐな執着心などと書いたら、彼のファンは怒るだろうか。
だが、なまの桜井は生の危ういまっすぐな執着心を隠すことのできない子であった。
彼にビール瓶を投げつけられたことがあった。僕に当たらないように投げたのか、無心で投げたのかわからない。
けれど,まっすぐなビール瓶の軌道は美しかったと思う。

桜井和寿のホンタイは
ビール瓶の軌道だ




ホンタイシリーズはフィクションであります
御容赦ください